京都地方裁判所 昭和46年(行ク)4号 決定 1972年6月05日
申立人
和田三郎
右代理人
三木善続
当庁昭和四六年(行ウ)第一四号免職処分取消請求事件について、申立人から被告変更の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件申立は却下する。
理由
一、本件申立の趣旨
当庁昭和四六年(行ウ)第一四号免職処分取消請求事件の被告京都府を被告京都府知事蜷川虎三に変更することを許可する。
との決定
二、本件申立の理由
(一) 申立人は、もと京都府の職員であったが、昭和四四年一〇月七日、地方公務員法二九条一項一号、三号所定の懲戒事由に該当するとして、京都府知事蜷川虎三から懲戒免職処分を受けた。そこで、弁護士三木善続は、同年一二月五日、申立人の代理人として、京都府知事蜷川虎三を相手どつて、京都府人事委員会に、地方公務員法四九条の二に従つて不服申立をしたところ、同委員会は、昭和四六年五月二八日、右処分を承認する旨の判定をした。
申立代理人三木善続は、同年八月二七日、本件訴(当庁昭和四六年(行ウ)第一四号免職処分取消請求事件)を提起した。
(二) 申立代理人は、被告を京都府知事蜷川虎三とすべきあったのに、誤つて、被告を京都府とした。
(三) しかしながら、申立代理人は、前記不服申立手続の当初から、右免職処分庁である京都府知事を相手どつてその処分の取消しを求め、本件訴の被告訴訟代理人も、右手続において右知事の代理人としてこれに関与してきたものである。
そうすると、偶々本件訴提起に際し、誤つて被告を京都府としたところで、その訴状には被告代表者として処分庁である右知事の氏名の表示があるから、この誤りは、被告の表示の訂正で是正しうると解する余地のある程軽微なものである。そうして、右の経過に鑑み、申立の趣旨どおり被告の変更を許しても、処分庁になんらの不利益をおよぼさない。
そのうえ、行政事件訴訟法一五条の被告変更の制度が、出訴期間の関係で原告が被告を誤ったため被る不利益を救済することを目的とする制度であることに照らし、右不服申立手続の当初から弁護士が原告の代理人として関与していたとしても、この一事をもつて直ちに原告が被告を誤ったことについて重大な過失があるとはいえない。
三、当裁判所の判断
(一) 本件記録によると、申立代理人は、申立人の訴訟代理人として、京都府を被告とし、もと京都府職員であった申立人が京都府知事蜷川虎三から受けた懲戒免職処分の取消しを求めて本件訴を提起したことが認められる。
ところで、地方公務員法六条一項に照らすと、本件訴の被告適格のあるものは、被告京都府ではなく、京都府知事蜷川虎三であることが明白である。
(二) そうして、本件記録によると、本件申立の理由(一)の事実が認められる。
(三) そうすると、本件訴の原告訴訟代理人である弁護士三木善続は、本件訴の提起に先立ち、申立人の代理人として関与した右不服申立手続で、自ら京都府知事蜷川虎三を右懲戒免職処分の処分庁として取り扱い、又その旨の判定書(甲第一号証)を受領しているのであるから、本件訴の提起にあたり、被告とすべき者が右知事であることは十二分諒知していたものとするほかはない。それにもかかわらず、同弁護士は、被告を京都府と誤り、本件訴を提起したことになり、この誤りは、弁護士として些少な注意を払えば陥る筈のない誤りを犯したものというべき重大な過失に当るといわざるをえない。行政事件訴訟法一五条一項の被告変更の制度は、出訴期間の関係で原告が被告を誤ったため被る不利益を救済することを目的とする制度ではあるが、これを本件の場合にまでおよぼして被告の変更を許可することは、同項が原告に重大な過失がないことを変更要件としているのを無視するものといわなければならない。そのうえ、処分庁の受ける結果的不利益の有無によつて、右被告変更の許否を決する基準とすることはできない。
(四) なお、一言付加すると、京都府と京都府知事蜷川虎三とは、別個の人格であるから、申立人がいうように、表示の誤記として、たやすく被告を京都府から京都府知事蜷川虎三に訂正することを許容する至当性はない。本件は、申立代理人が重大な過失によつて、被告を取り違えたのであるから、尚更表示の誤記による訂正という是正方法はない。
(五) そうすると、申立人の本件申立は理由がないから却下することとし、主文のとおり決定する。
(古崎慶長 谷村允裕 飯田敏彦)